注意力や集中力も低下?!
米ペンシルバニア大学などの研究チームは、被験者を徹夜のグループと、睡眠時間6時間のグループに分け、脳の働きを検証しました。
徹夜グループは、すぐに反応速度が遅くなり、初日、2日目と成績が急激に下降しました。
一方、6時間睡眠グループは、最初の2日間はほとんど変化はありませんでした。
ですが、2週間続けると、徹夜グループの2日徹夜と同じくらいの反応速度となったのです。
徹夜グループは眠気があるが、6時間睡眠グループは眠気はなく、脳の働きの衰えを自覚していませんでした。
わずかな睡眠不足が蓄積していった場合、なかなかその影響について自覚できないのです。
気づかないうちに注意力、集中力が落ち、日々の生活のパフォーマンスが落ちていくのです。
参考文献:Van Dongen HP et al. Sleep. 2003 Mar 15;26(2):11726.
睡眠負債とがんとの関係
東北大学が、宮城県の女性24,000人あまりを7年間追跡し、睡眠時間と乳がんの発症リスクの関係を調べました。
その結果、平均睡眠時間が6時間以下の人では、7時間寝ている人に対し、乳がんのリスクがおよそ1.67倍になることがわかりました。
2014年に、米シカゴ大学が行った研究では、睡眠負債ががんにどう影響するのか、それをマウスで調べました。
実験的に長期間睡眠を不足させた(睡眠負債の状態にした)マウスでは、がん細胞が増殖しやすくなっていることがわかりました。
通常の睡眠のマウスに比べ、睡眠負債の状態に陥ったマウスでは、がんが3週間で2倍以上の重さになったのです。
本来なら、がん細胞を攻撃するはずの免疫細胞の働きが、睡眠不足により低下する可能性がわかってきました。
参考文献:Kakizaki M et al. Br J Cancer. 2008 Nov 4;99(9):1502-5
Hakim F et al. Cancer Res. 2014 Mar 1;74(5):1329-37.
睡眠負債と認知症との関係
認知症の発症も、睡眠負債と関係があることが分かってきました。
アメリカのスタンフォード大学の睡眠生体リズム研究所長 西野精治さんの研究によると、睡眠負債の状態に置いたマウスはアミロイドβが脳に蓄積されやすいそうです。
アミロイドβは、アルツハイマー病の原因といわれます。
毎日、日中に脳内に発生しますが、眠っている間に脳から排出されます。
ですが、睡眠時間が足りないと、アミロイドβは排出しきれません。
アミロイドβは、認知症が発症する20~30年前から蓄積するといわれています。
働き盛りの時期での睡眠負債には注意しましょう。
参考文献:Jae-Eun Kang et al. Science 326, 1005 (2009);
どのくらい眠ったらいいの? 必要な睡眠時間は?
では、何時間、眠ればいいのでしょうか?
睡眠評価研究機構の白川医学博士によると、必要な睡眠時間は以下の通りです。
- 成人は7時間前後、高齢者で7時間
- 子どもは8~9時間
ですが、個人差はあります。
7時間眠っていても、睡眠負債に陥っている場合もあるそうですよ。
睡眠負債リスクチェック
睡眠障害(不眠症)の臨床の場で一般的に利用されている「アテネ不眠尺度」の質問項目をもとにしたものです。
1.寝床についてから実際に眠るまでどのくらいの時間がかかりましたか?
A:寝つきはよかった
B:少し時間がかかった
C:かなり時間がかかった
D:とても時間がかかった(または眠れなかった)
2.夜間睡眠の途中で目が覚めることがありましたか?
A:問題になるほどではなかった
B:少し困ることがあった
C:かなり困った
D:深刻な状態である(または全く眠れなかった)
3.希望する起床時間より早く目覚め、それ以降眠れないことは?
A:そのようなことはなかった
B:少し早かった
C:かなり早かった
D:とても速かった(または全く眠れなかった)
4.夜の眠りや昼寝も合わせて睡眠時間は足りていましたか?
A:十分
B:少し足りない
C:かなり足りない
D:全く足りない(または全く眠れなかった)
5.全体的な睡眠の質についてどう感じていますか?
A:満足している
B:少し不満
C:かなり不満
D::非常に不満である
6.日中の気分はどうでしたか?
A:いつも通りだった
B:少しめいった
C:かなりめいった
D:非常にめいった
7.日中の活動(身体的・精神的)はいかがでしたか?
A:いつも通りだった
B:少し低下した
C:かなり低下した
D:非常に低下した
8.日中の眠気はありましたか?
A:全くなかったった
B:少しあった
C:かなりあった
D:激しかった
回答をそれぞれ、A:0点、B:1点、C:2点、D:3点として、8問の合計点を計算します。
答えの結果、
10点以上→危険度が「高」
6~9点→危険度が「中」
5点以下→危険度が「低」
睡眠負債を返済するには
睡眠負債の危険度が「中」「高」と出た場合、最大の対策は、「これまでより長く寝るようにする」ことです。
ただし「週末の寝だめ」に頼ろうとすると、生活リズムが乱れ、その結果、かえって睡眠負債を増やしてしまう危険があります。
無理して一度に返済しようとしてはいけません。
何ごとも「コツコツ地道」なのがベストです。
目安は、1日7~8時間の睡眠です。
眠りのリズムを整えるには
寝る前の過ごし方を工夫する
眠気を感じるのは、脳から眠りやすくするホルモンのメラトニンが分泌され、血中のメラトニン濃度があがっていくからです。
ところが、新聞を読んだり、スマートフォンでのメールやSNS、動画の閲覧などで感情が動くと、メラトニンの分泌が抑制されます。
せっかくたまった眠気が妨げられてしまうのです。
夜、「布団のなかで新聞や本を読まない」「寝室ではテレビや照明を消す」など、眠る前の過ごし方を工夫しましょう。
日光を浴びる
日光を浴びることは、体内時計の調整・改善に効果的です。
夜更かしを続けると、体内時計がずれ、メラトニンの分泌も遅くなります。
曇りの日も、空の明るい方角を見るだけでも効果はあります。
室内の蛍光灯では、残念ながら、光量が足りないので、しっかり日光を浴びるようにしましょう。